カメラ好きのラーメンと古畑任三郎の感想備忘録

技術系のリーマンが仕事観やラーメンレポなどを中心に書き連ねます

【小説】人情探偵富田林 スープカリー慕情 後編

【登場人物】

富田林....主人公。東京足立区北千住で探偵業を営む。いつもダンボールを背中に背負っている。

邦子.......北海道すすきのにあるスープカリー店、ナマステグラッチェの経営者。蒸発した夫、竹枝健の捜索を富田林に依頼する。

竹枝健.... 邦子の夫。ナマステグラッチェのシェフ。1週間前に蒸発した。

タツさん...北千住の浮浪者。富田林にアドバイスを提供する。

 

 

巡り会いとはいつも数奇なものだ...

俺は今、北千住のとある喫茶店で竹枝健さんといる。

依頼者の邦子が探していた夫が、見つかったのだ。

浮浪者たちの宴会に混ざっていた竹枝健さんを発見した日俺は連絡先を交換し、翌日こうして喫茶店で会っているというわけだ。

コーヒーをすすり、竹枝健さんは重い口を開いた。

竹枝健さん「た、探偵さん。折り入っての相談です。どうか邦子には私の居場所を黙っていてもらえんでしょうか?」

俺はすかさず口を開いた。

富田林「それは無理ですよ竹枝健さん。悪いが、依頼人を裏切っちゃあこの商売あがったりなんでね....」

竹枝健さん「そうでっか....」

束の間の沈黙を破るように、俺は聞いてみた。

富田林「竹枝健さん、あなたに一体なにが会ったんだい?聞けば、すすきの店も、結婚生活も順調そのものだったどうじゃねえか?」

竹枝健さん「.......」

富田林「内容によっちゃあ、あんたと邦子さんの間をとりもってやってもいいぜ。」

そう言うと、遠い目をしながら竹枝健さんが語り始めた....

竹枝健さん「あれは、5年前のことやった....」

 

〜回想〜

 すすきのの店は、邦子の父であるおやっさんの店やった。

ワイは5年前、同僚の服部という男と共におやっさんの元でカレーの修行に励んでいました....

そこで、問題があったんや。ワイも、服部も、邦子に惚れてしもていたんです。

そんな折、ある日おやっさんに呼び出されました。

 

おやっさん「お前たちが邦子に惚れていることはわかっている。ワイもこの先長くはねえ。娘の婿をとって、この店を継がせたいと思うちょる」

竹枝健・服部「おやっさん!」

おやっさん「ワイはお前たち二人のどちらかに継がせたい。がお前たちは年も同じ、肝心な料理の腕も甲乙つけがたいんや。」

竹枝健・服部「おやっさん!」

 おやっさん「そこでだ、お前たち二人、インドへカレー作りの修行に出ろ!5年間修行をし、腕がいい方に邦子をやる!5年後でもまだ30手前や。結婚に遅いことはあらへん!」

竹枝健・服部「おやっさん!」

 おやっさん「但し、1つだけ約束や!どんなことがあっても!途中で戻ってくるんやない!たとえワイの身に何がおきてもや!」

 

おやっさん「わかったか!絶対に途中で戻ってくるんやないで!!!」

 

ワイと服部はおやっさんの言いつけ通り、インドへ修行に渡りました。

 

しかしそれから2年後、おやっさんが亡くなったとの知らせが届いたのです....

 

ワイは大恩あるおやっさん訃報にいてもたってもいられず、日本へ戻ってきてしまったのです。

一方服部は約束通り、インドに残りました。

 

おやっさんが亡くなり、店に1人ぼっちになってしまった邦子の手助けをしているうちに「ごく自然の成り行きで」ワイたちは恋人になりそのまま結婚する運びとなりました....

そして、ワイは本格的なカレーを扱うスープカリー店はまだまだ札幌にないと考え、店をスープカリー店に変えることにしました。

幸い、店も繁盛し、邦子との結婚生活も順調でした。そんな中、あれから5年経過した今年、服部がインドから帰ってきたのです......

 

ワイは服部に夜、人気のない空き地に呼び出されました。

バキッ

服部「おまえはおやっさんを裏切ったんやで!あれほど固い約束をしたおきながら....ワイはな...5年間ちゃんと辛抱して修行してきたんやでえ!!!」

竹枝健「そやけど!おやっさんが亡くなりはっと知ったら帰って来ずにはいられなかったんや!わかってくれ!最初からお前を裏切るつもりなんかなかったんや!!!」

服部ィ「なんやてえ!!!」

グイッ

服部「おやっさんと交わした約束はワイらしか知らんこっちゃ!!!」

服部「このことを邦子さん知りはったら、どない思わはるやろなあ!!!」

竹枝健「えっ」

服部「約束を守らへん卑怯な奴と知りはったら、きっとお前に愛想尽かしはるやろなあ!!!」

ヒュッ ドサッ

服部「勝負や!! 約束通り、料理の腕で勝負や!!!」

服部「おまえが勝ったら、ワイは引き下がる。但し、ワイが勝ったら、邦子さんにワイらとおやっさんがどんな約束をしたか暴露したる!!!」

服部「お前の家庭がどうなったって!ワイは知らんでえ!!!」

 〜回想終了〜

 

竹枝健「勝負の日は3日後です..5年間も修行してきた服部に敵うはずもありまへん。ワイは邦子を失うプレッシャーから、気づけば東京に帰ってきてしまったんです。あてもなく放浪していたところに、タツと出会い、仲間に入れてもらいました。」

 

富田林「竹枝健さん、あんたこれからどうするんだい?」

竹枝健「どうもこうも....これから正直なこと話しても邦子に愛想つかれるやし...どうすることもワイにはできないです....」

竹枝健さんが言い淀んだ後に、俺はこう切り出した。

富田林「邦子を愛してはいないのか?あんたその程度の覚悟で邦子と結婚したんですか?」

そう言うと、竹枝健さんは顔を真っ赤にしてこう叫んだ。

竹枝健「あ、愛してますよ!kunikoへの思いは真剣で純粋なんです!」

フッ...俺はタバコを一息蒸した。

富田林「勝てばいいじゃねえか」

竹枝健さん「えっ」

富田林「おまえさんの愛は本物なんだろ?だったら服部さんに料理で勝てばいい。どんな料理で勝てるか、俺も一緒に考えてやるよ。勝負が終わるまで、邦子には黙っておいてやる。これは特別サービスです。」

富田林「とりあえず札幌にいこう。俺は服部さんと話してみる。」

竹枝健「わかりました。富田林さんがそこまで言ってくれるなら、ワイも覚悟を決めます。」

こうして俺たちは札幌に行くことになった。

 

札幌に着くや否や、富田林さんは店には帰らず適当なホテルに泊まり勝負の対策を考え、俺は服部さんのところへ向かうことにした。

 

ここか...札幌すすきのの小汚いアパートに服部さんはいるようだ。

どんどんと扉をノックした。

扉が開き、精悍な顔の若い男が出てきた。服部さんだった......

 

俺はことの経緯を説明し、服部さんは喫茶店で話しをしてくれることに応じてくれた。

 

服部「竹枝健はここに連れてきてへんか?」

富田林「まあ、落ち着いてください。服部さんの悔しい気持ちもよくわかります。しかし、邦子さんはもう結婚してるんです。許すってわけにはいか....」

服部「断る!そんな話しをするためにワイはわざわざ来たんやないで!!竹枝健が勝負をすると言うから来たんや!あいつだけはどないしても許せへん!絶対に仕返ししないと気が治らんのや!!」

富田林「でも...服部さんは邦子さんのことを愛していたのではないですか?邦子さんが不幸になってもよいのですか?」

富田林の言葉に、ハッする服部.....

服部「そやけど!竹枝健がぬけぬけと幸せに暮らしているのを見過ごすなんて絶対に許せんのや!ワイはなんのため5年間もインドで修行をしてきたんや!ワイかて...世話になったおやっさんがなくなったと聞いて、どんだけ日本へ帰りたかったか.....」

富田林「それを生かすも殺すも服部さん次第だと思うけど、服部さんの悔しい気持ちはよくわかりました。勝負の方は俺がセッティングします。約束通り二日後に店でまってます。」

服部「富田林さんにはご迷惑をおかけしすみまへん。わかりました。」

 

こうして俺は服部さんと別れ、竹枝健さんにこのことを伝えた。

竹枝健さんスープカレー以外は自信がない、しかし、カレー料理だと負けるとふさぎ込んでいた。俺はしばらく考えた。

困ったな.....

いろんなチーズやチキン、ひき肉などメニューにいろんな組み合わせがあるのがスープカレーの醍醐味だ....これが全部食べれれば、一つぐらいは勝てるメニューがあるんじゃねえかな...まあ、そりゃ無理か....

ん?全部食べるだと?

俺はあるアイデアを思いつき、 竹枝健さんに話してみた。

 

 

そして二日後、勝負の時がきた。

場所は邦子の店を借りることにした。邦子には俺から竹枝健さんが見つかったことと、邦子さんに会う前にどうしても服部さんと勝負をしなくてはいけないことを伝え、理由を聞かず承諾してくれた。

料理対決が始まった。

竹枝健さんと服部さんが共に調理を始めた。

服部さんは料理をしながらも、一方的な会話で精神攻撃を与えた。

服部「スープカリーなんてあくまで前菜や!本物の料理やない!!」

一方、竹枝健さんは黙って調理を続けた。

 

先に料理をだしたのは服部さんだった。

服部「これがほんまもんの、仔牛のカレーじゃい!!」

 

竹枝健「うっうまい.....」

富田林「すげえ料理が。スパイスの味が2重にも3重にも折り重なって、味のオーケストラを演奏してやがる。この仔牛の味も見事じゃないか」

邦子「生牡蠣はおやつに含まれますか?バナナは私に入りますか?」

 

服部「竹枝健!次はおまえの番じゃい!!」

厨房に戻り、竹枝健が料理をだしてきた。スープカリーだった。

 

しかしなんと、そのスープカリーには具が何も入っていなかったのだ.......

 

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これをみた服部さんが激怒した。

服部「竹枝健!貴様!ふざけているのか!?」

 竹枝健「お願いや!まず味を見てくれ!」

 

一同、そのスープカリーをすすった....そして.....

 

服部「なんやこれ...すすればすするほどにいろんな味がしみてくるわ.....これは牛肉の旨味、これはチーズや...そしてこれはなんとザンギか....」

邦子「バナナは私に入りませんが、きゅうりなら入りました」

 

富田林「このスープは、スープカリーに使われる具材全てを出しに使いました。肉はもちろん、豊富な野菜や海鮮類、チーズ、そして北海道のからあげ、ザンギまでもです。」

 

服部「そうやったんや...せやからこんな深い味に.....すごい料理や.......」

 邦子「オイスターの神が、私を呼んでいます。あぁ生牡蠣。」

 

十分メインディッシュと拮抗できると確信したのか、服部さんは立ち去ろうとした。

富田林「服部さん、あなたの料理のほうが美味しいと言い張れたはずだ。あなたは、立派な方ですね。」

 

服部「おおきに....」

 

 竹枝健「服部!」

何も言わずに潔く去る服部。

こうして勝負は終わった......この奇妙な依頼と共に.....

 

 

 

後日

 

北千住に戻った俺は、ダンボールを床にしいて寝そべっていた。

そうしていたら、邦子が事務所に現れた。

どうやら依頼の成功報酬を払いにきたらしい。

邦子「探偵さん、今回は本当にありがとうございました。夫からあの後、本当のことを聞きましたわ.....個人的見解および社会的要望から、私たちはあのままあのお店を続けることにしましたわ。」

富田林「なんだって?」

邦子「ふしゅるるる.....」

富田林「そ、そうですか。」

邦子「きゅうりは私に入ります。」

富田林「ではお気をつけなすって......」

 

わからないものだな....邦子の謎の発言に疑問を感じながらも、俺は深く息を吐くと、再びダンボールの上で深い眠りにつくのであった.....

 

〜END〜